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【講演報告】次世代タンデム型ペロブスカイト太陽電池の信頼性向上技術について

2026年06月29日

学びの知っ得

次世代タンデム型ペロブスカイト太陽電池の信頼性向上技術について」

国立大学法人新潟大学自然科学系情報電子工学系列教授・

カーボンニュートラル融合技術研究センター副センター長 増田 淳 氏

6月10日に開催した工業部会にて、増田様より講演していただきました。

2050年のカーボンニュートラル達成に向け、再生可能エネルギーの主軸である太陽光発電は今、大きな転換期を迎えている。かつて日本メーカーが席巻した太陽電池市場は現在、中国が生産の約9割、年間導入量の約6割を占める圧倒的な一強時代。製造コスト面での真っ向勝負が困難な中、日本発の革新技術「ペロブスカイト太陽電池」を武器に、新たな国産エネルギー産業を興そうとする戦略と技術開発の現在地が語られました。

 

1.太陽光発電を取り巻く世界と日本の現状

・爆発的に伸びる世界の導入量

太陽電池の誕生から70年以上を経て、世界の累積導入量が1TW(テラワット)を超えたのは2022年のこと。しかし、その後わずか2年で2TW、さらに1年後には3TWを窺うなど、市場は右肩上がりで超高速急拡大している。

・圧倒的な中国一強と日本の凋落

2005年頃までは、シャープや三洋電機など国内4社で世界生産の半分を占めていた日本だが、現在は世界の生産比率・累積導入量ともに激減し、生産は1%にも満たない。現在の世界市場は中国を中心に回っている。

・日本の平地導入量は世界一(限界の露呈)

日本は平地面積あたりの太陽光発電導入量がすでに世界一。メガソーラー等の「平地への適地」は枯渇しており、斜面への設置による自然破壊や災害リスクが批判されるなど、従来のシリコン型パネルは設置場所の限界に達している。

 

2.日本発の技術「ペロブスカイト太陽電池」とは?

・ペロブスカイトとは、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授が太陽電池への応用可能性を発見した材料の「結晶構造」の名称。原材料を塗布や印刷、真空蒸着といったプロセスにより低温で形成できるため、従来のシリコン製に比べ大幅な低コスト化・簡易製造が期待されている。

・研究レベルでの最高効率の推移(約10年で超高速進化)

長年研究されてきたシリコン系が理論上の限界効率に近づく中、ペロブスカイト太陽電池は2013年以降のわずか10年強で27.3%という驚異的な最高効率を達成。シリコン系に匹敵する、極めて優秀な新材料であることが証明されている。

 

3.日本が狙う「2つの差別化戦略」

・日本は、圧倒的なコスト差がある中国製の「既存シリコンパネル」と正面衝突する市場を避け、目的の異なる2つのアプローチで市場開拓を進めている。

① 【単独・フィルム型】シリコンと「競合しない」新市場の開拓

軽量でフレキシブルなポリマーフィルム上に形成し、「曲げられる」「軽い」という特性を最大限に活かしている。

ターゲット→重いシリコンパネルが載せられなかった脆弱な工場の屋根、ビルの壁面、移動体(自動車の屋根、航空機・HAPSの翼)、農業用など。

意匠性(デザイン性)→黒一色ではなく、模様をつくりこめるなど都市の景観に溶け込むデザイン性に優れる意匠性パネルの開発も進んでいる。

② 【タンデム型】シリコンの「限界を超える」超高効率化

波長の短い光を「ペロブスカイト(上部)」が吸収し、波長の長い光を「シリコン(下部)」が吸収する、2層構造の太陽電池。

・狙い→シリコン単独の理論的限界効率を打破し、35.0%を超える超高効率を実現。

・ターゲット→2012年のFIT(固定価格買取制度)開始以降に大量導入されたメガソーラー用シリコン太陽電池が、25年程度の寿命を迎える2030年代半ばの「置き換え需要」を見据えている。量産技術の確立に向け、2030年代初頭の技術確立を目指している。

・世界の競合状況

タンデム型で世界最高効率(35.0%)を叩き出しているのは、日本の大学ではなく中国の民間企業(LONGi社)。基礎研究だけでなく、社会実装へのスピード感が日本にも求められている。

 

4.実用化に向けた「3大技術課題」と独自の挑戦

積水化学をはじめとする国内企業が開発を加速させているが、本格的な商用化にはいくつかの高い障壁が存在する。

 課題①:信頼性と寿命(最大のネック)

ペロブスカイトは「温度」「紫外線(光)」「水分」の3つに極めて弱いという特性がある。

特に水分に触れると、24時間で性能が大幅に低下してしまう。

 課題②:大面積化・低コスト生産技術

フィルム上に「ロール・トゥ・ロール」でムラなく大面積印刷する生産技術の確立が必要。

 課題③:鉛(有害物質)の回収・リサイクル体制

結晶構造の主原料に「鉛」が含まれるため、一般消費者が使い捨てるIoT機器等の民生用ではなく、まずは産業用(ユーティリティ)として確実に回収・リサイクルできる仕組み作りと、それに合致した市場選びが不可欠。

 

 ・【研究の成果】国際規格をクリアする「封止技術」の開発

シリコン太陽電池は「150℃」の熱をかけてEVAシートで密閉(封止)するが、ペロブスカイトは100℃までしか耐えらない。そこで、大学等の研究チームでは低温で扱える独自のシート(信越化学工業社製など)を用い100℃以下で密閉するとともに、周辺からの水分の浸入を徹底的に防ぐ「構造」を共同開発。

これまでの試験では750時間で劣化していたものが、最新データでは1,500時間(国際規格である1,000時間を突破)まで性能が低下しない技術を確立。目標とする3,000時間(商品化の目安)の半分まで到達している。

 

5.新潟県・日本の大いなる強み:世界一の原材料「ヨウ素」

産業の観点では厳しい戦いが続く日本だが、エネルギー安全保障においてペロブスカイトには「原材料を100%国内調達できる」という決定的な強みがある。

・シリコンの弱点

国内に大手加工メーカーはあるが、最上流の「シリコン原材料」は100%海外(主に中国)からの輸入に依存しており、地政学リスクを抱えている。

・ペロブスカイトの強み(ヨウ素):

主原料である「ヨウ素」は、日本が世界シェアの約3割を占める世界一の埋蔵国(生産国)。

さらに、その日本国内の供給地として、千葉県に次ぐ第2位の生産量を誇るのが「新潟県」(水溶性天然ガスとともに湧出)。

自国の足元に、次世代エネルギーの主原料が豊富に眠っているという事実は、日本のエネルギー経済を根底から支える大きなアドバンテージとなる。

・新潟県内でも、現在経済産業省の予算において、長崎大学を主体とする洋上風力発電に関するコンソーシアムに新潟大学を含む8大学が参画し、事業者と連携した開発や「人材育成(教育)」が活発に行われている。直近でも、イギリスの大学からの視察を受け入れるなど、国際的な教育連携も進んでいる。

・新潟県および新潟市では、すでにペロブスカイト太陽電池の導入・実証事業に対する手厚い補助金制度がスタートしている

・新潟が誇る一大アセット(ヨウ素資源や大学の技術力)を活かした次世代太陽電池は、地域の製造業・工業事業者にとっても新たなビジネスチャンスとカーボンニュートラル対応の強力な

一手となり得る。ぜひ、今後の動向に注視し、各種制度やセミナーを積極的に活用いただきたい。

 

2050年カーボンニュートラルに向け、日本発の「ペロブスカイト太陽電池」が注目されている。従来のシリコン型が設置場所や原材料の海外依存に限界を迎える中、軽量で曲げられる「単独・フィルム型」での新市場開拓や、シリコンと重ねて超高効率化を図る「タンデム型」での置き換え需要を狙う。

最大の課題は熱や水分への「信頼性と寿命」だが、国際規格をクリアする独自の低温封止技術の開発が進む。さらに、主原料の「ヨウ素」は日本が世界有数の産地であり、特に新潟県は国内第2位の生産量を誇る。原材料の100%国内調達による経済安全保障の強みを活かし、新潟大学や自治体が連携した技術開発や実用化への取り組みが活発化している。